梅雨バテと隠れ脱水を見逃さないために|1,030人調査×内科医監修の訪問看護師向けケアガイド

梅雨の時期に体調不良を感じる人は約4割——。株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に1,030人を対象に実施した調査で、そんな実態が明らかになりました。さらに2026年は3月の寒暖差が例年より大きく、自律神経がすでに消耗した状態で梅雨を迎えるため、例年以上に症状が深刻化しやすいと考えられます。支援が必要な訪問看護の利用者さんにとって、梅雨バテは脱水・転倒・既往症悪化への入口になり得る見逃せない症状です。本記事では内科医の立場から、現場で今すぐ使えるアセスメント・ケアの知識を解説します。
目次
梅雨バテとは——夏バテとの違いを理解する
梅雨バテとは、梅雨の時期に特有の環境変化(気圧の低下・高湿度・日照不足)が複合的に重なることで自律神経が乱れ、心身にさまざまな不調をきたす状態の総称です。「夏バテ」と混同されることが多いですが、発症のメカニズムは異なります。
| 梅雨バテ | 夏バテ | |
| 主な時期 | 6月〜7月上旬 | 7月〜8月 |
| 主な原因 | 気圧変動・高湿度・日照不足 | 高温・高湿度・冷房による体温調節の乱れ |
| 中心症状 | だるさ・頭痛・メンタル不調・睡眠障害 | 食欲不振・疲労感・体力消耗 |
| 特徴 | 自律神経の乱れが主体 | 体力・栄養の消耗が主体 |
この違いが訪問看護の現場で重要なのは、「気温がまだ高くないから大丈夫」という先入観が、梅雨バテや隠れ脱水の見落としにつながりやすいからです。また、気圧変化に伴う不調は「気象病」「天気痛」とも呼ばれ、日本生気象学会の研究によると天気の変化で体調不良を訴える人は全体の約7割にのぼるとされています。
潜在的な患者数は国内に1,000万人以上と推計されており、梅雨バテはその代表的な症状です。訪問看護の利用者さんだけでなく、訪問看護師のみなさん自身にも影響が出やすい時期であることを覚えておいてください。
梅雨バテの症状【1,030人調査データ】
株式会社リーフェホールディングスが2026年3月に実施した「春の不調に関する実態調査」(n=1,030人)では、6月に不調を感じた402人に対して具体的な症状を尋ねました(複数回答可)。
上位5位の結果は以下の通りです。
| 順位 | 割合 | 割合 |
| 1位 | だるさ | 73.1% |
| 2位 | 頭痛・眩暈 | 60.4% |
| 3位 | 肩こり・腰痛 | 45.5% |
| 4位 | 無気力 | 39.1% |
| 5位 | 眠りが浅い | 35.6% |
(株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人)
注目したいのは、「だるさ」「頭痛」といった身体症状に加え、「無気力(39.1%)」という精神面の不調が4位に入っている点です。
訪問看護の現場でこうした変化に気づいたとき、それは「異変を察知するきっかけ」になります。ただし、反応の鈍さや意識の変化は脳血管障害・重度脱水・低ナトリウム血症など重大な疾患でも現れるため、まずバイタル測定と意識レベルの確認を行い、重篤な原因を除外することが先決です。そのうえで環境的な背景(梅雨・気圧変化)と照らし合わせ、梅雨バテの関与を考えてください。
支援が必要な利用者さんにとって、梅雨バテの症状は日常生活に直結します。だるさや無気力が続けば活動量が落ち、廃用症候群につながる可能性があります。頭痛や眩暈があれば立ちくらみから転倒につながることもありますし、食欲不振が重なると服薬が不規則になり既往症に影響が出ることも考えられます。「なんとなく元気がない」というサインを早めにキャッチして関わることが、在宅生活の安定を支える第一歩です。
梅雨バテが日常生活に与える影響【調査データ】
同調査で4〜6月に不調を経験した980人に「不調時に本来の自分の何%で動けているか」を尋ねたところ、78.9%が「80%未満」と回答しました。
| パフォーマンス | 割合 |
| 80〜100%(ほぼ変わらない) | 21.1% |
| 50〜79%(ミスが増える・動きが遅い) | 57.0% |
| 20〜49%(最低限のことしかできない) | 18.1% |
| 0〜19%(休みたい・何も手につかない) | 3.8% |
(株式会社リーフェホールディングス「春の不調に関する実態調査」2026年3月・n=1,030人)
不調を感じた人の約6割が「ミスが増える・動きが遅い」状態にあります。訪問看護の利用者さんの場合、このパフォーマンス低下は服薬管理のミス・転倒リスクの上昇・水分摂取量の低下として現れやすく、より深刻な事態に発展するリスクがあります。
また見落としがちですが、介護をしているご家族も同様の影響を受けている可能性があります。ケアの質が全体的に落ちやすい時期として認識しておくことが大切です。最悪の場合、うっかり服薬管理のミスにつながることもゼロではありません。「家族の介護力も季節によって変わる」という視点を持ちながら、訪問時に服薬カレンダーの確認や一包化の提案をさりげなく行うことが、利用者さんとご家族の両方を支えることになります。
梅雨バテの3つの原因——医学的メカニズム
(1)気圧の低下による自律神経の乱れ
梅雨は低気圧が長期間持続します。
耳の奥にある「内耳」は気圧を感知する精密なセンサーとして機能しており、気圧が低下すると前庭神経が過剰に反応し、自律神経のバランスが崩れます。
自律神経には「交感神経(活動モード)」と「副交感神経(休息モード)」の2系統があり、低気圧が続くと副交感神経が優位になりやすく、体が常に「休息モード」に傾きます。
これがだるさ・眠気・意欲低下の本質的な原因です。
また、低気圧の影響でヒスタミンという炎症・発痛物質の産生が増えることが知られており、頭痛・肩こりの増悪につながります。
(2)高湿度による体温調節機能の低下と「隠れ脱水」
梅雨時期は湿度が80〜90%に達することもあります。
高湿度環境では汗が蒸発しにくく、体内に熱がこもった状態(うつ熱)が続きます。
これがだるさや倦怠感の主な原因のひとつです。
さらに見落とされがちなのが「隠れ脱水」のリスクです。
「梅雨はまだ涼しいから水を飲まなくていい」という認識のまま、気づかないうちに水分不足が進行するケースが多くあります。
高齢者は口渇感が鈍化していることが多く、自覚なく脱水が進むリスクが特に高い点に注意が必要です。
(3)日照不足によるセロトニン・メラトニン分泌の乱れ
太陽光を浴びることで分泌されるセロトニン(幸福ホルモン)は、気分の安定や意欲の維持に不可欠な神経伝達物質です。
梅雨の時期は晴天が少なくなることでセロトニンの分泌が低下し、気分の落ち込み・無気力感・不安といった精神症状が現れやすくなります。
またセロトニンは睡眠ホルモン「メラトニン」の前駆体でもあるため、睡眠の質の低下や日中の眠気にも直結します。
訪問看護師が押さえておきたいポイント
梅雨バテは自己申告されにくい症状です。特に高齢の利用者さんは「年のせい」「大げさにしたくない」と思い、体調変化を積極的–に伝えないことが多くあります。
以下のチェックリストを訪問時のアセスメントにそのままご活用ください。
なお、チェックリストの使用はバイタルサインと意識レベルに大きな変化がないことを確認したうえで行ってください。
【梅雨バテチェックポイント】
表情・言動の変化
- いつもより口数が少ない・反応が遅い
- 「なんとなくだるい」「ぼーっとする」という訴えがある
- 何もしたくない、外に出たくないという意欲の低下がある
- ぼんやりしている・会話が噛み合わない
隠れ脱水のサイン
- 口腔内・口唇の乾燥がある
- 皮膚をつまんで戻りが遅い
- 尿の色が濃い・回数が少ない
- 腋窩に発汗がない(体温調節機能低下の危険なサイン)
- 血圧低下・脈拍増加がある
生活環境の確認
- 室温28℃以上・湿度60%以上になっていないか
- エアコンを使っていない・使い慣れていないか
- 水分補給がアルコールやコーヒー中心になっていないか
- 食事量や睡眠に変化が出ていないか
- 服薬が正しく行われているか
【特に注意が必要な利用者さん】
- 高齢(口渇感の鈍化により自覚なく脱水が進みやすい)
- 心疾患・腎疾患・糖尿病などの基礎疾患がある
- 利尿薬・降圧薬・抗コリン薬など脱水リスクを高める薬剤を服用中
- 日中独居、またはほぼ動かない生活をしている
- エアコンを使わない、または使い慣れていない
1つでも該当する項目がある場合は、梅雨バテの可能性を念頭に置いた観察と早めのケア介入を検討してください。
最新研究に基づく梅雨バテの対策
(1)内耳ケア——耳まわりのマッサージ
内耳は気圧変化を感知するセンサーとして機能しており、血流を改善することで自律神経の過剰反応を抑える効果が期待できます。
道具は不要で座ったままできるため、利用者さんへそのまま指導しやすいケアです。
訪問時に一緒に実施してみるのもよいでしょう。
やり方(1回約1〜2分)
- 両手の親指と人差し指で耳全体を軽くつまみ、上・下・横に5秒ずつゆっくり引っ張る
- 耳全体を後ろ方向にゆっくり5回まわす
- 耳を折り畳むように前に倒し、5秒キープする
- 手のひらで耳全体を覆い、後ろ方向に円を描くように5回まわす
雨の日の朝や、体調変化を感じたタイミングで行うのが効果的です。
(2)腹式呼吸——迷走神経を刺激して副交感神経を整える
深くゆっくりとした腹式呼吸は横隔膜を動かし、迷走神経を介して副交感神経を直接活性化します。 座位・臥位どちらでも実践できるため、在宅でのケアに取り入れやすい方法です。
手順:鼻から4秒吸ってお腹を膨らませ、口から8秒かけて吐く。5〜10回を目安に、起床時・就寝前に習慣化する。
(3)適切な水分補給と経口補水ドリンク
水分摂取量は1日の目安として1.5〜2リットルで、時間を決めてこまめに摂ることが大切です(腎疾患・心不全のある方は担当医の指示量を優先してください)。
水や麦茶が適していますが、身体がだるい場合には水と電解質を同時に補給できる経口補水液が特に有効です。
以下のレシピで自宅でも簡単に作ることができます。
橋本医師考案:手作り経口補水ドリンクレシピ(コップ1杯・約200ml分)
| 材料 | 分量 |
| 水 | 200ml |
| レモン汁 | 大さじ1 |
| リンゴ酢 | 小さじ1 |
| オリゴ糖 | 大さじ1 |
| はちみつ | 大さじ1+小さじ1 |
| 塩 | ひとつまみ |
コップに水を注ぎ、すべての材料を加えてよくかき混ぜるだけで完成です。
ビワ・パイン・キウイ・梅・桃・ミントなど旬のフルーツを加えるとさらに飲みやすくなります。
なお、アルコールやコーヒー・緑茶には利尿作用があるため、水分補給の代わりとして摂取すると脱水が進む可能性があります。
飲み物の「量」だけでなく「中身」も確認することが重要です。
[注意事項]
・塩分・糖分の制限がある利用者さんへの提供は、事前に担当医または管理栄養士へご相談ください。
・作り置きは雑菌繁殖のリスクがあるため、作ったその日のうちに飲み切るようにしてください。
(4)栄養バランスのとれた食事
梅雨バテの症状を和らげるためには、自律神経のサポートに関わる以下の栄養素を意識した食事が効果的です。
| 栄養素 | 期待できる効果 | 主な食材 |
| ビタミンB群 | 疲労回復・自律神経のサポート | 豚肉・玄米・納豆・バナナ |
| ビタミンC | 抗酸化作用・免疫力の向上 | レモン・キウイ・ピーマン |
| マグネシウム | 自律神経の安定 | 豆腐・ひじき・アーモンド |
| タンパク質 | 免疫力の維持・疲労回復 | 鶏肉・魚・大豆製品 |
| 発酵食品 | 腸内環境を整え自律神経に好影響 | ヨーグルト・納豆・キムチ |
食事の準備が難しい利用者さんには、品数の多い定食や宅配食の活用もご提案ください。腸内環境と自律神経には密接な関係があることが近年の研究で示されており、発酵食品の積極的な摂取は梅雨バテ対策としても注目されています。
(5)生活リズムの維持と室内環境の整備
自律神経の乱れを防ぐためには、規則正しい生活リズムを保つことが基本です。
毎朝同じ時間に起床し、雨天でも室内の電気をつけて明るい環境を作ることで、体内時計のリセットを促せます。
また37〜38℃のぬるめの入浴は副交感神経を適度に活性化させ、睡眠の質向上にも効果的です。
室内環境については、高齢の利用者さんが「暑くないからエアコンは不要」と判断して室温・湿度が上がり続けているケースが多く見られます。
訪問時に室温28℃以下・湿度60%以下を目安に環境を確認し、必要であればエアコンの適切な使用を促してください。
利用者さん・ご家族への現場での活用ポイント
訪問看護の現場では「気持ちの問題だと思っていた」「梅雨だから仕方ない」という声が多く聞かれます。
まず「気圧変化による医学的な症状であること」を伝えることが、利用者さんの安心感と行動変容の第一歩になります。
現場では次の3点を優先して確認・指導するのが実践的です。
- 水分補給の中身を確認する:量だけでなく、アルコール・コーヒー中心になっていないかをさりげなく聞く。「1時間に1回コップ半分」を目安として伝えると習慣化しやすい。
- 室内環境を目で確認する:エアコンの使用状況・室温・湿度を訪問のたびにチェックする。「電気代より命が大事」と丁寧に伝えることが高齢の利用者さんには特に有効。
- 介護家族にも声をかける:ご家族自身も梅雨バテの影響を受けているケースが多い。「一緒にケアしましょう」というスタンスが介護の持続性にもつながる。
こんな症状は受診を——梅雨バテと他疾患の見極め
「梅雨バテかもしれない」と思っても、他の疾患が隠れているケースがあります。
以下の症状が続く場合や、梅雨バテ対策をとっても改善しない場合は、早めに受診を促してください。
| 症状・所見 | 疑われる疾患 | 受診先 |
| だるさ・むくみ・寒がり・体重増加が続く | 甲状腺機能低下症 | 内科 |
| 著明な倦怠感・動悸・顔色不良 | 鉄欠乏性貧血 | 内科 |
| 市販薬が効かない持続的な頭痛・吐き気 | 片頭痛・高血圧・脳血管疾患 | 内科・神経内科 |
| 強いめまい・耳鳴り・難聴 | メニエール病・突発性難聴 | 耳鼻咽喉科 |
| 気分の落ち込み・無気力が2週間以上続く | うつ病・適応障害 | 心療内科・精神科 |
訪問看護師として大切なのは、「梅雨バテかもしれないが、梅雨バテではないかもしれない」という視点を常に持つことです。症状が想定より強い・長引く・急激に悪化する際は、積極的に担当医師へ報告・相談してください。
まとめ
梅雨バテは「気のせい」でも「年のせい」でもなく、医学的な根拠をもつ体調不良です。適切なケアで症状を大きく和らげることができます。訪問看護の現場で「なんとなく元気がない」利用者さんに気づいたとき、本記事のアセスメントの視点とケアの知識がその一助になれば幸いです。また、皆さん自身の体調管理にもお役立ていただければ幸いです。
【調査概要】
調査名:春の不調に関する実態調査
実施者:株式会社リーフェホールディングス
調査対象:全国の男女
有効回答数:1,030人
調査方法:インターネット調査
| 執筆:橋本 将吉 現役内科医。『西新宿セルフライフ内科クリニック 』院長。 2011年に「医学教育という専門領域から、日本と世界の明るい未来を創造する」という理念のもと、株式会社リーフェホールディングス(旧株式会社リーフェ)を設立。 将来の医師を育てる医学生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営や、自らが『ドクターハッシー(内科医 橋本将吉)』というYouTubeで健康教育を行う。 2022年9月に、健康や医学を医師から学ぶ事のできるサービス『ヘルスケアアカデミー』をリリース。ヘルスケアアカデミー事業の一環として企業や学校などでセミナーを開催している。 また、2023年11月には現役の医師目線で日々を健康に暮らすためのアイテムを扱うライフスタイルブランド「ハシモトマサヨシ」を立ち上げ、乳酸菌飲料「乳酸菌V28」や睡眠グッズ「お疲れさまくら」などの商品を展開している。 「めざましテレビ」「ホンマでっか!TV」「櫻井・有吉THE夜会」など多数のテレビ番組の出演、「世界一受けたい授業」「林修の今、知りたいでしょ!」など、人気番組の医療監修を手掛け、著書に『薬のトリセツ』(自由国民社)『「老いても元気な人」と「どんどん衰えていく人」ではなにが違うのか』(アスコム)などがある。 リーフェホールディングス:https://li-fe.co.jp/ 医学生道場:https://igakuseidojo.com/ ヘルスケアアカデミー:https://healthcare-academy.co.jp/ ハシモトマサヨシ:https://hashimotomasayoshi.co.jp/ |